フリーランス法と契約書|業務委託契約のポイントと条文例を解説します

2024年11月に「フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行されました。
近年、Web制作、システム開発、デザイン、ライティング、動画編集など、フリーランスへ業務を委託する企業が増えています。
その一方で、
- 依頼した内容と異なっているとの理由で減額を要求された
- 報酬の内容・時期を明確に定めていなかったため、支払いを巡って行き違いが生じた
- 納品後に何度も修正を求められた
といったトラブルも少なくありません。
フリーランス法は、このようなトラブルを未然に防ぎ、フリーランスとの適正な取引を確保するために制定された法律です。
本稿では契約書の作成に焦点を当て、実務で活用できる契約条文例を豊富に取り上げながら、フリーランス法の概要と実務上の注意点をわかりやすく解説します。内容は主として、フリーランス法の遵守が求められる発注者の視点で整理していますが、受注者であるフリーランスにとっても実務に役立つ情報となっています。
目次
1.フリーランス法とは
フリーランス法は、業務委託で働くフリーランスが安心して働ける環境を整備するために、発注者との間の取引を適正化と、就業環境の整備を図ることを目的とした法律です。
フリーランス法では、発注者に対し、様々な規制を定めています。
取引の適正化
① 書面等による取引条件の明示
② 期日における報酬の支払
③ 受領拒否、報酬の減額など7つの禁止行為(1か月以上の期間行う業務委託が対象)
就業環境の整備
④ 募集情報の的確な表示
⑤ 育児介護等と業務の両立に対する配慮(6か月以上の期間行う業務委託が対象)
⑥ ハラスメント対策に係る体制整備義務
⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示義務
この中で、特に取引の適正化①~③については、契約書や発注書(注文書)を適切に作成することで、トラブルを防ぐことができます。


2.フリーランス法の対象となる事業者
(1)保護の対象となる事業者

フリーランス法で保護されるのは、「特定受託事業者」と呼ばれる事業者(以下「フリーランス」といいます。)です。
簡単にいうと、「従業員を使用していない個人事業主」又は「役員が一人であり、かつ従業員を使用していない法人(いわゆるひとり社長の法人)」が対象となります。株式会社などの法人であっても、役員が一人のみで従業員を使用していない場合は、保護の対象となります。
一方、「従業員を使用している個人事業主」又は「役員が複数いる法人若しくは従業員を使用している法人」は、特定受託事業者には該当せず、フリーランス法による保護の対象とはなりません。
なお、ここでいう「従業員」とは、週の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用が見込まれる者をいいます。
(2)規制の対象となる事業者

フリーランス法において規制の対象となるのは、フリーランスに対して業務委託を行う事業者です。
委託者が「従業員を使用する個人事業主」又は「役員が複数いる法人若しくは従業員を使用する法人」の場合は、「特定業務委託事業者」に該当し、フリーランス法上の各種義務が適用されます。
一方、「従業員を使用しない個人事業主」又は「役員が一人で従業員を使用しない法人(いわゆるひとり社長の法人)」が委託者の場合は、「業務委託事業者」に該当し、取引条件の明示義務のみが適用されます。
なお、フリーランス法は事業者間取引を対象とする法律であるため、消費者がフリーランスに仕事を依頼する場合は、法規制の対象外となります。
3.フリーランス法の対象業務
(1)フリーランス法の対象業務
フリーランス法の対象となる業務委託は、大きく次の3つに分類されます。
① 物品の製造・加工の委託
「物品を製造する」「物品に加工を施す」場合が該当します。
たとえば、アクセサリーの製作、家具の製作、部品の加工などを依頼する場合がこれに当たります。完成品だけでなく、半製品や部品の製造・加工も対象となります。
② 情報成果物の作成委託
「プログラム、映像、音声、文章、図面、デザインその他の情報成果物を作成する」場合が該当します。
たとえば、記事やイラストの作成、アプリケーションの開発、Webサイトの制作、PR動画の制作などを依頼する場合がこれに当たります。
③ 役務提供委託
「サービスを提供する」場合が該当します。
たとえば、経営コンサルティング、イベント会場での写真撮影、システム保守、カスタマーサポート業務などを依頼する場合がこれに当たります。
(2)取適法(旧下請法)との違い
2026年1月1日から下請法が改正され、取適法(正式名称:中小受託取引適正化法)が施行されました。
取適法は、中小受託事業者に対する取引の適正化を目的とする法律であり、一定規模以上の事業者(資本金額又は従業員数が法令で定める基準以上の事業者)が、中小受託事業者(個人事業主又は資本金額若しくは従業員数が法令で定める基準以下の事業者)に業務を委託する取引を対象としています。
また、対象となる取引は、発注者が第三者に提供する物品や情報成果物等の製造・作成又は役務の提供を委託する取引が中心となっています。そのため、たとえば事業者Aが自社内で利用するためのシステム開発を個人事業主Bへ委託した場合、その成果物は第三者への提供を目的としていないため、取適法の対象とはなりません。
一方、フリーランス法では、成果物が第三者向けであるか自社利用目的であるかを問わず、業務委託に該当すれば対象となります。そのため、自社で利用する社内システムの開発、自社ホームページの記事作成、自社利用のデザイン制作などをフリーランスへ委託する場合も、フリーランス法の対象となります。
このように、取適法は主として「第三者に提供するための成果物や役務」に関する取引を対象としているのに対し、フリーランス法は成果物や役務の利用目的を問わず広く業務委託を対象としているため、取適法と比較して対象となる業務委託の範囲が広く設定されている点が特徴です。
4.フリーランス法による規制(義務と禁止事項)
(1)取引条件の明示
発注者は、業務の内容など決められた項目を書面か電磁的方法(電子メール、SNS、PDFファイル等)で委託先に明示しなければなりません。これを、3条通知といいます。
明示が必要な取引条件は、以下のとおりです。
① 発注者の名称等
② フリーランスの名称等
③ 委託日
④ 委託内容
⑤ 給付の受領・役務の提供を受ける期日
⑥ 給付の受領・役務の提供を受ける場所
⑦ 検査の完了日(検査をする場合)
⑧ 報酬額
⑨ 支払期日
⑩ 支払方法に関する必要事項(現金以外の方法で支払う場合)
なお、一定期間にわたり同種の業務委託を複数回行う場合には、あらかじめ共通する取引条件を明示しておけば、個々の委託ごとにすべての条件を繰り返し明示する必要はありません。実務上は、共通事項を「基本契約書」で定め、個別の業務内容や報酬等について「発注書(注文書)」で定める方式がよく採用されています。
また、これらの事項の内容を定められないことにつき正当な理由がある場合は、その事項の明示を省略することができます。ただし、内容が定められた後は、直ちにその内容を明示しなければなりません。
(2)報酬の支払時期の設定義務
発注者は、フリーランスから物品、情報成果物又は役務の提供を受けた日(以下「受領日」といいます。)から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その期日までに報酬を支払わなければなりません。
この60日の起算点となる「受領日」は、委託の内容によって次のように定められています。
① 物品の製造・加工委託
「受領日」は、成果物を受領した日です。
受領前に検査を行う場合には、検査の終了日ではなく、検査のために給付を受けた日が受領日となります。
② 情報成果物の作成委託
「受領日」は、成果物を受領した日です。
電子メールやクラウドサービス等により受領する場合は、発注者の使用するコンピュータに成果物が記録された日が受領日となります。
③ 役務提供委託
「受領日」は、役務(サービス)の提供を受けた日です。
ただし、役務の提供に日数を要する場合は、一連のサービスの提供が終了した日(最終日)が受領日となります。
また、継続的にサービス提供が行われる場合で以下の要件を満たすときは月単位などで設定した締切対象期間の末日に役務の提供を受けたものとして取り扱うことが認められています。
・月単位でまとめることが合意されていること
・報酬の額又はその算定方式が3条通知に定められていること
・連続して提供する役務が同種のものであること
④ フリーランスの責めに帰すべき事由によりやり直しるとなった場合
フリーランスの責めに帰すべき事由により成果物のやり直しが行われた場合には、やり直し後の成果物を受領した日が起算日となります。
上記のいずれの場合も、受領日等から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることが原則です。
ただし、フリーランスへの委託が、再委託に該当する場合(たとえば、発注者が取引先から受注した業務の全部又は一部をフリーランスへ委託する場合)には、一定事項を明示することにより、元委託者から支払を受ける日から起算して30日以内のできる限り短い期間内を支払期日とすることが認められています。
(3)禁止行為
フリーランスに対して1か月以上の業務委託をした場合、次の行為をしてはいけません。
・受領拒否
・報酬の減額
・返品
・買いたたき
・購入・利用の強制
・不当な経済上の利益の提供要請
・不当な給付内容の変更・やり直し
なお、「1か月以上の業務委託」とは、業務委託をした日から給付を受領する日までの期間又は役務の提供を受ける日までの期間が1か月以上である業務委託をいいます。
たとえば、
・4月1日に発注し、5月10日に納品を受ける場合
・6か月間の顧問契約を締結し、継続して相談業務の提供を受ける場合
などがこれに該当します。
もっとも、このような行為は契約違反(債務不履行)となる場合があるほか、取引の状況によっては独占禁止法上の優越的地位の濫用等の問題が生じる可能性があります。そのため、1か月未満の業務委託であっても、正当な理由なく、これらの行為は行うべきではありません。
5.フリーランス法に対応した条文例

フリーランスと契約を交わす際には、主に次の観点から契約内容を定めることが重要です。
① 法令に適合した内容とする
フリーランス法では、発注者が遵守すべき義務が定められています。
たとえば、報酬の支払期日については、原則として成果物や役務の給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定めなければなりません。
したがって、
・受領日から60日を超える支払期日を設定すること
・検収完了日や請求書受領日など、受領日以外の日を基準として支払期日を定めること
は、受託者が同意していたとしても、フリーランス法に違反するおそれがあります。
このほかにも、取引条件の明示義務や禁止行為に関する規制などが設けられているため、委託者はフリーランス法の内容を理解したうえで契約条件を定める必要があります。
② 契約内容を具体的かつ明確に定める
契約内容が曖昧ですと、「依頼した内容と違う」「そのようなことは依頼されていない」といった認識の齟齬が生じやすくなります。
その結果、
・受領拒否
・不当な返品
・不当な給付内容の変更又はやり直し
などのトラブルが生じることがあります。
このようなことを防ぐために、成果物や役務の内容、作業範囲、品質基準、納期、修正回数等について、契約当事者間で共通の理解ができる程度に具体的かつ明確に定めておくことが重要です。
(1)委託内容(成果物・役務)
委託内容については、成果物や役務(サービス)の内容を具体的に記載するようにします。
「〇〇一式」などのような漠然とした取り決めですと、トラブルのもとになります。
そのため、成果物については、品目、品種、数量、規格、仕様などを明確にします。役務についても同様に、作業範囲、作業手順、提供時間・期間、成果の水準(品質基準)、使用するツール・方法、報告の頻度や形式などを具体的に定めておくことが重要です。
また、修正対応が可能な回数や追加作業の扱いを明確にしておくことで、後のトラブル防止につながります。
(2)納品場所・役務の提供を受ける場所
物品の製造や加工委託の場合は、物品を受け取る場所を記載します。情報成果物等を電子メールで受取る場合は、納品先メールアドレスを記載します。
役務(サービス)の提供を受ける場合は、サービス受ける場所を記載します。なお、インターネット経由でのサービスのように場所の特定ができない場合は、記載は不要です。
以下に、「(1)委託内容」「(2)納品場所・役務の提供を受ける場所」に関する条文例を記載します。
例1:製造加工
1 業務内容
PS-1の製作
2 仕様
型式:PS-1
製品番号:570863-2
数量:1台
関連資料:図面番号IE-PS-122102、検査事項表
3 納入場所
○○○株式会社 東京営業所 3号棟
(東京都○○市○○1-2-3)
例2:原稿作成
1 業務内容
① Webサイト「XX」に掲載する○○に関する記事の作成
② 前号に付随する取材、写真撮影、画像データの提供
2 仕様
掲載媒体:Webサイト「XX」
成果物 :① キャッチコピー 1本(XX字以内)
② 小見出し 2本(各XX字以内)
③ 本文 3,000字以上5,000字以内
修正対応:○回まで無償
○回を超える修正は1回につき○○円(消費税別)
3 納品方法
Wordファイル形式で作成し、委託者の指定する電子メールアドレスへ送付する
例3:写真撮影
1 業務内容
雑誌「ZZZ」の表紙に掲載する写真の撮影
2 仕様
掲載媒体:雑誌「ZZZ」(発行部数○○部)
写真枚数:○枚
レタッチ:有・無
3 納品方法
ネガフィルム又は写真データを格納した記録媒体を○○○株式会社 東京営業所
(東京都○○市○○1-2-3)に持参する方法による
例4:コンサルティング
1 業務内容
XXXに関する助言及び指導
2 提供内容
① オンライン会議又は電話による助言・指導
実施時間: 月○時間まで
超過料金:1時間あたり○○円(1時間未満切上げ・消費税別)
② 研修の実施
実施場所:○○○株式会社 東京工場(東京都○○市○○1-2-3)
実施回数:1回あたり○時間の研修を月○回まで
超過料金:1回あたり○○円(消費税別)
上記の条文例は「フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)https://freelance110.mhlw.go.jp/assets/pdf/pages/guideline/improve_guideline.pdf 」に掲載されている契約書ひな型の事例を、一部加筆・修正したものです。
(3)納品日・役務の提供を受ける期日
物品の製造や加工を委託した場合は、その物品を受け取る期日を記載します。
役務(サービス)の提供を委託した場合は、サービス受ける期日(又は期間)を記載します。
例1:物品の製造委託
受託者は、委託者に対し、本成果物を〇年〇月〇日までに第〇条に定める納品場所に納品しなければならない。
例2:役務の提供(相当期間に渡り提供する場合)
本件業務の委託期間は、 ○○年○○月○○日から○○年○○月○○日とする。
(4)報酬額
支払う報酬の額を記載します。具体的な金額を記載するのが困難なやむを得ない事情がある場合は、報酬額の算定方法を記載することが認められています。
例1:物品の製造委託
本件製造業務の対価は○○円(消費税別)とする。
例2:役務の提供(一回払い)
本契約に基づく委託料は〇〇円(消費税別)とする。
例3:役務の提供(月額報酬制)
本契約に基づく委託料は月額〇〇円(消費税別)とする。
例4:役務の提供(タイムチャージ制)
本契約に基づく委託料は一時間あたり〇〇円(消費税別)とする。
例5:役務の提供(報酬額算定方法による場合)
報酬の額は、以下の算定方法により算出された金額に、消費税等相当額を加算した額とする。
単 価:Aランク技術者:1時間当たり〇〇円
Bランク技術者:1時間当たり〇〇円
算定式:上記単価 × 実作業時間(受託者が作成し委託者が確認した作業報告書に基づく)
なお、原稿、イラスト、映像制作などの業務で知的財産権が発生する場合は、その扱いについても定める必要があります。この点については、「(9)知的財産権」をご参照ください。
(5)経費
委託業務に通信費、交通費等が発生する場合は、報酬とこれらの経費の扱いを明確にする必要があります。
例1:受託者が経費を負担
本件業務に伴って発生する交通費、通信費、関連する資料の購入費その他費用は、受託者の負担とする。ただし、著しく過大な費用が発生する場合には、委託者及び受託者は別途協議を行い、その負担者を決定するものとする。
例2:委託者が経費を負担
委託者は、本業務委託料とは別に、本業務に関して受託者に発生する別紙〇に定める項目の経費(実費)を、負担するものとする。
(6)支払期日
① 原則
報酬を支払う日を記載します。支払期日は、原則として給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があります。
毎月の特定日に報酬を支払うこととする月単位の締切制度を用いた支払期日(例:毎月〇日締切、翌月〇日支払)とすることも認められます。なお、毎月末日締切にする場合には、翌月末日までに支払期日を設定する必要がありますが、31日まである月も、30日までしかない月も、同じく1か月として考えます。
例1:日付による特定
代金の支払期日は、○年○月○日とする。
例2:月単位の締切制度
受託者は毎月1日から月末日までの本件業務について、毎月翌月〇日までに業務日数と時間を記録した書面及び請求書を委託者に提出する。委託者は、受託者の発効する請求書に基づき、委託料を翌月末日に支払うものとする。
② 再委託で元委託者の支払期日を基準に支払い期日を定める場合
フリーランスへの委託が、再委託に該当する場合(発注者が取引先から受注した業務の全部又は一部をフリーランスへ委託する場合)は、元委託者から支払を受ける日から起算して30日以内のできる限り短い期間内を支払期日とすることが認められています。ただし、この場合は、契約時に以下の事項を明示する必要があります。
・ 再委託である旨
・ 元委託者の名称
・ 元委託業務の対価の支払期日(元委託支払期日)
例3:再委託において元受の支払期日を基準に支払い期日を定める例
1 本業務は、委託者が、元委託者である [元委託者の名称] から受託した業務の全部又は一部を、受託者に再委託するものである。
2 委託者が、元委託者から本業務の対価の支払いを受ける日は、○年○月○日である。
3 第〇条に定める受託者への対価の支払期日は、前項の元委託支払期日から起算して30日目の日とする。
③ 支払期日を定める際の注意点
支払期日を定めるにあたり、具体的な日が特定できない表現や、受領日以外を起算点にする定め方は認められません。
(ア)「期限」のみを示し、特定の日を定めていない場合
支払期日は、カレンダー上の特定の日として確定できる書き方をする必要があります。そのため、
・〇月〇日までに支払う
・納品後〇日以内に支払う」
といった定め方は、認められません。これらは「期限」を示しているに過ぎず、具体的な「期日(特定の日)」ではないためです。
(イ)起算日が不適切な場合(受領日以外を基準にする)
起算日は受領日を起算点として定める必要があります。そのため、
・貴社から請求書を受領した日から○日後に支払う
・当社が一般消費者に販売した日から○日後に支払う(消化仕入)
・検査が完了した日から○日以内に支払う
といった定め方は、認められません。
いずれも、物品等を受領した日(役務提供日)から60日以内という制限を守れなくなるおそれがあるためです。
なお、60日の起算点となる受領日の定め方については「4(2)報酬の支払い時期の設定義務」をご参照ください。
(7)支払方法
銀行振込や電子記録債権等により支払う場合は、その方法や必要な事項を記載します。なお、銀行振込の場合の振込手数料を受託者であるフリーランスに負担させることは、「減額」の禁止に抵触するおそれがあるため、原則として委託者が負担すべきでしょう。
例:銀行振込
委託者は、第〇条に定める代金を受託者の指定する金融機関口座に振込により支払う。振込手数料は、委託者の負担とする。
(8)検査
納品物について数量、品質、仕様などについて検査が必要な場合は、検査の完了日を明示する必要があります。検査完了日については、具体的な日付で特定する以外、「納品後〇日以内」といった定め方もできます。また、検査完了日以外に、検査の内容や、検査の結果不備が発見された場合の対応も定めておくことが良いとされています。
検査を行う場合であっても、法的な報酬支払期限の起算日は変わりません。そのため、「検査に合格した日から◯日以内」といった支払期日の定め方は、法的に認められません。検査に時間がかかったとしても、受領した日から60日以内に支払いを完了させる必要があります。
例:検査及び検収の実施
1. 委託者は、受託者から本件成果物の納品を受けたときは、あらかじめ定めた検査基準に基づき、遅滞なく検査を行うものとする。
2. 前項の検査は、本件成果物の納品日(受領日)から起算して〇日以内に完了するものとする。
3. 委託者は、検査の結果、本件成果物が検査基準に合格したときは、直ちに受託者に対しその旨を通知するものとする。当該通知をもって検収完了とする。
4. 本件成果物が検査基準に適合しない場合、委託者は受託者に対し、不合格の理由を付して速やかに修復又はやり直しを求めることができる。ただし、委託者があらかじめ定められた検査基準を恣意的に厳しくし、不当にやり直しをさせることはできない。
(9)知的財産権
委託業務においてイラスト、記事、写真、動画、プログラムなどの成果物が作成される場合には、著作権その他の知的財産権の取扱いについて契約書で定めておく必要があります。
著作権は、原則として著作物を創作した者に帰属します。したがって、業務を委託しただけでは、成果物の著作権が当然に委託者へ移転するわけではありません。
委託者が成果物を利用するには、著作権の譲渡を受けるか、または著作権は受託者に残したまま利用許諾(ライセンス)を受けるか、いずれかの取決めが必要です。さらに、著作権の譲渡や利用許諾といった権利処理を行う場合には、その対価を契約書で明確に定めておくことが求められます。
利用許諾とする場合には、対価のほか、利用範囲、利用期間、第三者への再許諾の可否などの条件を定めます。また、譲渡・利用許諾のいずれの場合でも、成果物の修正や改変を予定している場合には、著作者人格権に配慮し、必要な取決めを行っておく必要があります。
例1:著作権を譲渡する場合
1 受託者は、本業務により作成した成果物に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)を、成果物の引渡し及び委託料の完済を条件として、委託者に譲渡する。
2 前項の著作権譲渡の対価は、本契約に基づき委託者が支払う委託料に含まれるものとする。
3 受託者は、委託者及び委託者が指定する者に対し、成果物に係る著作物の利用について、著作者人格権を行使しないものとする。
※著作権譲渡の対価を別途定める場合は、第2項を次のようにします。
2 委託者は、前項の著作権譲渡の対価として、受託者に対し金○○円(消費税別)を支払う。
例2:著作権を実施許諾する場合
1 本業務により作成された成果物に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)は、受託者に帰属する。
2 受託者は、委託者に対し、成果物に係る著作物を、委託者の事業のために利用することを、非独占的かつ期間の定めなく許諾する。
3 前項の利用許諾の対価は、本契約に基づき委託者が支払う委託料に含まれるものとする。
4 受託者は、委託者に対し、成果物に係る著作物の利用について、著作者人格権を行使しないものとする。
※実施許諾の対価を委託料とは別に定める場合は、第3項を次のようにします。
3 委託者は、前項の利用許諾の対価として金○○円(消費税別)を受託者に支払う。
著作権の基礎知識や契約上の注意点については、次の記事をご参照ください。
著作権の基礎知識|契約書の知的財産条項を正しく作成・チェックするために
契約書の知的財産権条項(著作権編)|「知的財産権の帰属」と「第三者の権利侵害」のポイントを解説
6.まとめ
フリーランス法の施行により、フリーランスとの取引では、契約内容をこれまで以上に明確に定めることが求められるようになりました。特に、対価の明示、支払期日の定め方、経費負担の取扱い、知的財産権の取扱いなどについては、フリーランス法に適合した形で取り決める必要があります。
適切に整備された契約書は、法律上のリスクを軽減するだけでなく、発注者・受託者双方が安心して取引を進めるための重要な基盤となります。フリーランスと契約を行う際、あるいはフリーランスの方が事業者と契約を行う際は、本稿の内容を参考にしていただければ幸いです。
なお、本稿は、契約書作成に関わる実務に焦点を当てて解説しているため、就業環境の整備( 募集情報の的確表示義務、育児・介護と業務の両立への配慮義務、ハラスメント対策に関する体制整備義務、中途解除時の事前予告・理由開示義務)については取り上げていません。 これらの内容については、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が公表している資料やフリーランス法の解説書等をご参照ください。
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」 (公正取引委員会・厚生労働省)
https://www.jftc.go.jp/file/fl_jftcmhlwguidelines.pdf
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 Q&A 」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/flpa_1.pdf
当事務所では、フリーランス法に対応した業務委託契約書の作成・チェックを承っております。
「現在使用している契約書がフリーランス法に適合しているか確認したい」
「これからフリーランスとの取引を始めるので、契約書を用意したい」
といったご相談にも対応しておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

この記事の著者:加藤達夫(行政書士)
契約書業務を専門とする行政書士。大手企業の法務部門で37年間、契約実務に従事した後に独立。現在は、日本語・英語双方の契約書の作成に対応しています。ベンチャー企業から中小企業まで、幅広い事業者の契約実務をサポート。条文の背景や潜在的なリスクを分かりやすく説明し、実務で使える契約書の作成を心がけています。
当事務所では、契約書の作成に関するご相談を承っております。
ご相談およびお見積りは無料です。お気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。

