準拠法、紛争解決手段、裁判管轄ついてわかりやすく解説します

契約の内容は、当事者が自由に決定できます。ただし、その解釈・運用にあたり、どの国の法律を適用するのかを定める必要があります。これを準拠法といいます。
また、契約に関する紛争が生じた場合、どのように解決するのかも決めておく必要があります。これを紛争解決手段といいます。本稿では、これらについて解説します。
なお、本稿は日本国内の当事者同士による契約を前提としています。海外の当事者が関与する契約に関する考え方は、別の記事で解説していますので、そちらをご参照ください。
1.準拠法、紛争可決手段、裁判管轄のポイント
準拠法、紛争解決手段、裁判管轄のポイントをまとめると以下のとおりです。
準拠法:契約の解釈や履行に関する判断基準となる法律
紛争解決手段:契約に関する紛争の解決方法(裁判、調停、仲裁など)
裁判管轄:紛争解決を裁判で行う場合に、どの裁判所に提訴するのかについての定め
これらについて契約書に規定がない場合、通常は以下のように取り扱われます。
準拠法:日本法
紛争解決手段:裁判
裁判管轄:原則として被告の所在地を管轄する裁判所(例外あり)
なお、当事者間の合意によって、これらの条件は任意に設定することが可能です。
2.準拠法
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<条項例>
第〇条 (準拠法)
本契約の準拠法は、日本国法とする。
準拠法とは、契約書をどの国の法律に基づいて解釈・適用するかについての取り決めです。
当事者間の合意により自由に選択することができますが、特段の合意がない場合、日本国内の当事者間で締結された契約には、原則として日本法が適用されます(法の適用に関する通則法第8条)。
そのため、日本人同士で締結される契約では、準拠法をあえて明記しないことが一般的です。
3.裁判(訴訟)

<条項例>
第〇条 (管轄裁判)
本契約に関する一切の紛争については,、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
(1)裁判管轄
紛争解決手段に裁判を選択する場合、当事者間の事前合意は不要です。この場合、原則として、原告は被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、または民事訴訟法に基づき定められた管轄裁判所に訴えを提起する必要があります。
一方で、どの裁判所で裁判を行うかを、当事者間で合意しておくことも可能です。これを 合意管轄といいます。たとえば、管轄裁判所を自社の事業所や顧問弁護士の事務所に近い裁判所 に定めることで、裁判手続きにおける打ち合わせや移動の負担を軽減することができます。
そのため、両当事者の拠点が物理的に離れている場合には、契約交渉において自社に有利な管轄裁判所を主張する傾向があります。管轄裁判所については、一方の当事者に有利となるようにするのか、あるいは 公平性を重視して双方がアクセスしやすい裁判所を選択するのかを協議のうえ定めます。
なお、合意管轄を定めるには、書面による合意 が必要であり、第一審に限られます。
(2)付加的合意管轄と専属的合意管轄
合意管轄には付加的合意管轄と専属的合意管轄の2種類があります。前者は法定の管轄に加えて当事者が合意した管轄も適用され、後者は合意した管轄のみが適用されます。
紛争解決の場として特定の裁判所のみを指定したい場合は、契約書に「〇〇裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」と明記する必要があります。
そのため、「〇〇裁判所を合意管轄裁判所とする」と記載しただけでは、付加的合意管轄とみなされるため注意が必要です。この場合、法定の管轄裁判所への訴訟提起も可能となるため、意図した裁判管轄を確保するには、専属的管轄であることを明確に記載する必要があります。
(3)三審制
日本の裁判制度は三審制を採用していますので、原則として三回まで裁判を受けることができます。このことは、慎重な審理が可能である反面、最終判断まで時間がかかることにもなります。
4.仲裁

<条項例>
第〇条 (仲裁合意)
本契約に関する一切の紛争については、〇〇〇〇(仲裁機関)の仲裁規則に従って、〇〇〇〇(都市名)において仲裁により最終的に解決されるものとする。
(1)仲裁とは
仲裁とは、当事者が紛争についての判断を仲裁人に委ね、それに従うことを予め合意することを前提とする紛争解決手段です。仲裁判断は民事裁判の確定判決と同等の効力を持つため、当事者は仲裁判断に従う義務があります。なお、裁判に代えて仲裁を選択する場合は、書面による合意が必要です。
(2)仲裁を選択するメリット・デメリット
仲裁には、以下のようなメリットがあります。
・迅速な解決が可能 であり、1回の審理 で終了する。
・手続きが非公開 で秘密保持ができるため、企業間の紛争解決に適している。
・専門性の高い仲裁人を選べるため、建設、金融取引など専門的な知識が必要な紛争や、高度な技術理解が求められる分野の紛争に適している。
一方、仲裁には以下のようなデメリットもあります。
・審理が1回のみ であるため、誤判の修正が困難。
・仲裁を実施するには、書面による合意が必要 である。
国内契約では、仲裁が選択されることは比較的少ないかもしれません。しかし、海外取引先との契約では、陪審員制度など国独自の裁判制度を避けることや、判決の執行性を確保すること(A国の仲裁判断に基づきB国での執行が可能)などの理由から、仲裁が広く利用されています。
(3)仲裁機関
日本の代表的な仲裁機関として、商事紛争の仲裁を行う日本商事仲裁協会(JCAA)や、知的財産権を巡る国際的紛争の解決に特化した仲裁機関である東京国際知的財産仲裁センター(IACT)などがあります。
5.まとめ
日本の当事者間における紛争解決では、日本法を準拠法とし、裁判による解決が一般的です。日本の裁判所では、審理手続や判断基準に大きな差がないため、管轄裁判所を選ぶ際は、主に地理的な利便性のみを考慮すれば十分です。
一方、仲裁には、紛争の公表や秘密情報の漏洩を避けられるという利点があります。加えて、建設分野など専門的な知識が求められる案件では、仲裁が有効な選択肢となる場合があります。
合意管轄や仲裁を採用するには、当事者間の書面による合意が必要です。紛争が発生してからこれらを合意するのは現実的には困難であるため、契約締結時に紛争解決手段を明確にし、契約書に明記しておくことが重要です。
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