期間満了、解約、解除。契約の終了と必要な手続きについて解説します

契約実務では、契約書作成や締結にむけた交渉戦略に注目が集まりがちですが、出口となる「契約の終了」も重要なポイントです。
契約関係が継続していても、相手方との関係が良好でない場合や、契約内容が遵守されていない場合には、契約を打ち切り、新たなパートナーとの取引に切り替えることで、より良い成果が期待できることがあります。また、実質的に契約関係が消滅しているにもかかわらず、契約を終了させずに放置していると、契約上の義務を引き続き負い続けるリスクが生じます。これは、不要な責任や法的トラブルにつながる可能性があるため、十分な注意が必要です。
本稿では、契約をどのようなタイミングで終了させるべきか、またその際に必要となる手続について、実務的な観点から詳しく解説します。あわせて、契約書作成時に参考となる具体的な条項例も掲載しています。
1.履行の完了による終了

一回限りの売買契約や請負契約などは、債務の履行が完了した時点で契約が終了します。このような契約では、終了時期が明確であるため、契約書に契約期間を定めないのが一般的です。
2.契約期間に基づく終了

(1)期間の満了
契約書に契約期間が定められている場合は、この期間の満了をもって契約は終了します。
【条文例】
第〇条(契約期間)
本契約の有効期間は、〇年〇月〇日からから〇年間とする。
(2)自動更新の更新拒絶
契約期間が定められている場合でも、一定の条件のもとで手続きを要することなく契約期間が延長される仕組みを自動更新といいます。
【条文例】
第〇条(契約期間)
本契約の有効期間は、〇年〇月〇日から〇年間とする。ただし、契約期間満了日の○か月前までに、当事者のいずれからの書面による申入れが行われなかった場合には、本契約は同一条件で1年間更新されるものとし、以降も同様とする。
自動更新は、契約の更新手続きを忘れることを防ぐことができるので、契約関係を長期的に維持したい場合には有効な手段です。一方で、通知期限を把握しておかないと、意図せず契約が継続してしまうため注意が必要です。取引そのものが行われていなくても契約が存続していると、秘密保持義務や競業避止義務などにより事業活動に制限が生じるといったリスクがあります。
自動更新の契約を終了させるには、申出期間内に相手方に更新を行わない旨の通知(更新拒絶通知)を行います。以下に、通知書面のサンプルを提示します。

なお、更新拒絶通知は確実に相手方に届くようにし、相手方が受領したことの確認をとるようにしましょう。取引のある会社であれば通常の連絡方法でよく、内容証明郵便を利用するまでは必要ないと思いますが、送受信の記録の残るメールで送る、郵送の場合にはメール等で受取の確認を貰うなど証拠が残るようにしておくことが好ましいでしょう。
(3)期間の定めのない契約の終了
継続的契約で契約期間を定めない契約は、原則として契約当事者の一方がいつでも解約を申し入れることが可能です。この場合、「相当の猶予期間を設けて解約を申し入れれば足りる」とする裁判例がある一方で、継続的契約においては「やむを得ない事由」が必要とされる裁判例も存在します。
(4)留意点
上述したように、契約期間が定められている場合は、期間満了により契約が終了します。また、契約に契約期間の定めがない場合、原則として一方当事者の解約の申入れにより契約は終了します。
ただし、(3)でも述べたように、継続的な取引を前提とした契約においては、単に形式的な終了要件を満たすだけでは契約の終了が認められない場合があります。そのため、終了に際しては、相当期間前の予告や合理的な終了理由の提示が求められることがあり、契約の性質や取引の実態に応じた対応が必要です。
3.中途解約条項

期間の定めがある契約は、原則として契約期間中の解約は認められませんが、次のような中途解約条項がある場合には、当事者の合意を要せずに契約を終了させることが可能です。
【条文例】
第〇条(契約期間)
1.本契約の有効期間は、〇年〇月〇日から〇年間とする。
2. 前項にかかわらず、甲または乙は、相手方に対して〇か月前までに書面で通知することによって、本契約を解約することができる。
中途解約には、契約を終了する側にとって、いつでも契約を打ち切ることができるというメリットがあります。一方で、解約される側にとっては、相手方の都合で契約が終了することにより、予定していた利益を失うなどのデメリットが生じる可能性があります。このため、契約書を作成する際には、以下の点について慎重に検討する必要があります。
・そもそも中途解約条項を設けるべきか
・解約権を有するのはどちらの当事者か
・解約する側に損害賠償などの義務を課すべきか
たとえば、契約の中途解約に際して相手方への金銭の支払いを要する場合には、以下のような条件を契約書に明記することが考えられます。
【条文例】
第○条(契約期間)
1. 本契約の有効期間は、○年○月○日から〇年間とする。
2. 前項にかかわらず、乙は、甲に対して〇か月前までに書面をもって通知することによって、本契約を解約することができる。ただし、この場合、乙は、甲に〇〇円の解約金を支払うものとする。
4.合意による契約の終了(合意解約・解除)

当事者全員が合意すれば、契約はいつでも終了させることができます。この場合、契約を遡って無効とするのか、将来に向かってのみ契約の効果を消滅させるのか等の合意内容を書面化しておくようにしましょう(「7.契約終了の効果」「9.契約終了の際に取り交わす書面」参照)。
5.解除

(1)解除とは
解除とは、「一方の当事者が、相手方との合意に基づくことなく、一方的に契約を終了させること」です。当事者が契約で定めた事由に該当する場合に解除できる場合と、法律で定めた事由に該当した場合に解除できる場合があります。
(2)契約で定めた条件に基づく解除(約定解除)
あらかじめ契約において解除事由を定めておき、これに該当する場合に契約を解除できるとするものです。企業間の契約においては、次の様な場合に契約の解除ができると定めることが一般的です。
・契約違反があった場合に是正を勧告しても是正されないとき
・信用状態の悪化が顕在化したとき
・監督官庁から営業取り消し処分を受けたとき
・反社会的勢力の排除条項に違反したとき
【条文例】
第〇条(契約の解除)
1.甲または乙は、相手方が本契約または個別契約に違反した場合には、相手方に対して相当期間を定めて書面をもってその是正を催告し、当該期間内に是正されないときは、本契約または個別契約の全部もしくは一部を解除することができる。
2.甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告その他の手続きを要することなく、直ちに本契約および個別契約の全部または一部を解除することができる。この場合、当該事由が発生したときは、直ちに相手方に通知しなければならない。
(1)手形または小切手の不渡り処分を受ける等、支払停止または支払不能の状態に陥ったとき。
(2)監督官庁より営業の取消、停止等の処分を受けたとき。
(3)第三者より競売手続の開始、差押、仮差押、仮処分を受けたとき。
(4)破産、特別清算、民事再生手続もしくは会社更生手続の申し立てを受けたとき、ないしは自ら申し立てたとき、または解散を決議したとき。
(5)合併、会社分割または事業の重要な部分を譲渡し、本契約または個別契約の履行に重大な支障が生じたとき。
(6)重大な法令違反があったとき。
(7)前各号のおそれがあると認められるとき。
なお、契約書に、相手方が倒産等した場合には契約を解除できると定めていたとしても、実際に法的な手続(破産、民事再生等)が開始されると、契約が破産管財人等の管理下に置かれることになります。その結果、契約当事者による一方的な解除が認められない可能性もあるため注意が必要です。
(3)法律の定めによる解除(法定解除)
相手方が契約上の義務を履行しない場合には、民法の規定に基づき契約を解除することが可能です。この場合、相手方に対して相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなされないときには契約を解除することができます(民法541条)。また、履行不能や履行拒絶などの事情がある場合には、催告を要せずに解除することも認められています(民法542条)。
もっとも、これらの法定解除事由に該当するか否かの判断は、事案ごとの事情に左右されるため、必ずしも容易ではありません。したがって、契約書においては、解除事由および解除手続について、具体的かつ明確に定めておくことが望ましいといえます。
6.契約の種類による特則※
(1)請負契約
たとえば、依頼者が「ホームページを作成して納品してほしい」と依頼し、制作者が成果物として納品する契約など、成果の完成を目的とした契約を請負契約といいます。
注文者が必要としなくなった場合に請負人に仕事を完成させるのは無駄であることから、請負人が仕事を完成させるまでの間、注文者はいつでも損害を賠償して契約の解除ができると定められています(民法641条)。なお、この規定は強硬規定ではありませんので、当事者がこれ以外の取決めを行うことが可能です。
(2)委任(準委任)契約
たとえば、企業が外部業者に「顧客対応業務を代行してほしい」と依頼する契約など、成果物ではなく、対応業務の遂行を目的とした契約を委任(準委任)契約といいます。委任契約は法律行為を、準委任契約は法律行為以外を対象としています。
委任契約は、信頼関係基礎としていることから、原則としていつでも各当事者が契約を解除できます。この場合、やむを得ない事由がある場合を除き、相手方に対して、解除による損害を賠償する責任を負います(民法656条)。なお、この規定は強硬規定ではありませんので、当事者がこれ以外の取決めを行うことが可能です。
(3)建物賃貸借契約
期間の定めのある建物の賃貸借契約においては、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新しない旨、または条件を変更しなければ更新しない旨の通知を行わなかった場合、契約は従前の条件で更新されたものとみなされます(借地借家法26条)。なお、賃貸人が更新を拒絶する場合には、この通知期間を短縮する特約を設けても、その効力は認められません(同法30条)。
一方で、期間の定めのない建物の賃貸借契約については、解約の申入れから6か月が経過することで契約が終了します(借地借家法27条)。この場合も、賃貸人からの申入れに関して通知期間を短縮する特約は無効とされます(同法30条)。
さらに、いずれのケースにおいても、賃貸人が更新を拒絶したり解約を申し入れたりする際には、正当事由が必要とされる点に注意が必要です(借地借家法28条)。
※ここで取り上げた(1)~(3)は代表的な例です。他にも法律によって契約の終了に関する条件が定められているものがあります。
7.契約終了の効果
(1)遡及効と将来効

契約終了の法的効果には、二つの類型があります。契約終了に際しては、終了後に生じる法的効果についても検討しておくことが重要です。
遡及効(原状回復)
契約締結前の状態に戻すことを目的とし、各当事者が受け取った給付を返還する義務を負います。
将来効
契約終了時点までの履行状況は維持しつつ、今後の契約効力のみを消滅させます。
(2)解除の効果
契約に特段に定めがない場合、解除の効果として、各当事者は原状回復義務を負います。一方で、賃貸借契約、雇用契約、委任(準委任)契約などの継続的契約では、解除による原状回復義務はなく、契約の効力は将来に向かってのみ消滅します。
(3)その他の契約終了の効果
契約期間の満了による終了や中途解約条項に基づく解約では、契約の効力は将来に向かってのみ消滅します。一方で、契約期間中に当事者間の合意により契約を終了させる場合には、契約の効力を遡及的に消滅させるか、将来に向かって消滅させるかについて、当事者間の合意によって決定します。
8.契約終了後の義務(残存条項)

契約の終了について説明してきましたが、契約終了とともに合意のすべての効力を失わせたくない場合、特定の合意事項に関しては引き続き効力を持たせることがあります。この取決めを、残存条項(存続条項)といいます。一般的に残存させておくべき条項には以下のようなものがあります。
・秘密保持条項
・競業避止条項
・契約不適合責任条項
・知的財産権条項
・損害賠償条項
・準拠法
・裁判管轄条項
なお、秘密保持や競業避止は一定期間のみ残存させ、損害賠償や裁判管轄については期限を定めず存続させることが一般的です。
【条文例】
第〇条(残存条項)
本契約終了後も、第〇条(秘密保持義務)、第〇条(競業避止義務)、第〇条第(知的財産権)、第〇条(損害賠償)、第〇条(準拠法)および第〇条(管轄)の規定は、引き続きその効力を有するものとする。ただし、 第〇条(秘密保持義務)および第〇条(競業避止義務)については本契約の終了日から〇年間に限るものとする。
9.契約終了の際に取り交わす書面
(1)終了に関する契約書
契約を終了させる際には、当事者双方が終了の意思を明確にし、債務の確認や清算方法などを取り決めた書面を作成することが有効です。特に、合意によって契約を終了させる場合は、終了条件や残務処理の内容を明文化しておくことで当事者間の認識の相違を防ぐことができます。
このような書面は「終了契約書(覚書)」「解約合意書」「確認書」などと呼ばれますが、いずれも契約終了に伴う合意事項を文書化することを目的としています。契約終了に関する合意や条件を文書で明確にしておくことで、後日の紛争や誤解を未然に防ぎ、円滑な関係整理と法的リスクの回避につながります。
なお、自動更新条項がある契約において更新を拒絶する場合に用いる「解除通知書」については「2(2)自動更新の更新拒絶」をご参照ください。
(2)契約書に定める内容
終了の際に作成する契約書で定めるべき主な事項は以下のとおりです。
・対象となる契約
・契約の終了日
・終了に伴う債務の整理(未払い金、貸与物の返還など)
・残存する権利義務の有無(競業避止、秘密保持など)
シンプルに契約の終了のみを定める場合は次のような書面を取り交わします。

契約の終了の際に債務の整理や残存条項の確認を行う場合は、次の様な書面を取り交わします。

(3)印紙の要否
終了に関する契約書は「契約の成立を証する文書」ではないため、原則として印紙不要です。ただし、金銭の支払いに関する合意や、新たな権利義務の発生が含まれる場合は、印紙が必要になる可能性がありますので注意が必要です。
参考 国税庁HP No.7117 契約書の意義
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7117.htm
10.まとめ
契約を締結する際には、取引を円滑に進めることに意識が向きがちですが、実際には予期せぬ事態が発生することも少なくありません。こうしたリスクに備えるためには、契約書の作成段階から、契約の終了条件や終了手続についても明確に定めておくことが重要です。これにより、万一の場合でも、契約を確実かつ円滑に終了させることが可能となります。
契約締結後は、有効期間や終了・更新に関する手続の期限などを適切に管理することが求められます。これを怠ると、不要な義務が継続したり、意図しない契約の自動更新が発生したりするなど、思わぬリスクを招くおそれがあります。
さらに、契約終了時には、法的観点からの検討も不可欠です。未払いの債権を確実に回収することや、契約終了後も存続する義務を相手方に履行させるためには、適切な手続と対応が必要です。
このように、契約の終了に関する対応は、法的知識と実務経験が求められる専門的な領域です。契約の専門家から助言を得ることで、終了時のリスクを最小限に抑え、安定した事業運営とビジネスの継続的な成功につなげることができます。
当事務所では、各種契約書の相談をお受けしています。
お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

