契約と法律の適用順位

契約書を作成・検討するする際に知っておくべき知識の一つに、契約と法律の適用順位があります。
契約内容は当事者が自由に定められるのが原則ですが、契約書よりも法律が優先する場合があります。また、契約書に定めのない事項は法律が適用されますが、複数の法律が競合する場合の適用順序も決まっています。
契約書の作成・検討には際には、これらの点を理解しておくことが重要です。

1.契約・法律の適用順序

契約・法律の適用順序は次のようになります。

 ① 強行規定  >  ② 契約 >  ③ 任意規定(特別法)  >  ④ 任意規定(一般法)

次項で順を追って説明します。

2.契約と法律の関係

(1)任意規定と契約の関係

契約はその内容によって民法、商法等などの法律が適用されます。例えば、民法には売買契約、請負契約などに関する取決めがあります。また、民法の総則、物権、債権などの一般原則は契約の種類によらず適用されます。民法は当事者によらず適用される法律で、一般法といいます。

一方、商人(会社や個人事業主など)間の契約に関しては商法も適用されます。このような特別な条件の下に適用される法律を特別法といいます。

一般法と特別法では特別法が優先して適用されます。

このように契約には法律(一般法・特別法)が適用されますが、当事者の合意があれば法律とは異なる取り決めができます。当事者の合意した内容が法律の規定に優先する法律の条項を任意規定といいます。

上記のように契約では任意規定と異なる取り決めができますが、法律の条項に反する取り決めには、その効力が認められないという法律の条項もあります。これを強行規定といいます。

強行規定には、社会秩序の維持のための取決め、相対的に弱い立場の当事者を守るための取決めがあります。前者には民法の第90条(公序良俗)、後者には下請法第2条の2(下請代金の支払期日)などがあります。

(3)具体的事例

物の売買をするときに交わす契約(売買契約)に関して、状況によりどのような法律が適用されるのか、契約との関係はどうなるのかを見てみましょう。
※以下の事例で説明している法律は代表的なものを挙げており、条件によって他の法律も適用されます。

①個人間の売買

あなたが友人の所有する物を買う場合、一般法である民法が適用されます。
また、契約で民法の定めと異なる取決めを行うことも可能です。

②商人間の売買

あなたがネット販売を行っている個人事業主であり、販売する商品を専門業者から仕入れる場合、民法に加えて特別法である商法が適用されます。

民法と商法が競合する場合は商法が優先適用されます。
例えば、商品の種類又は品質に関して不適合があった場合に、売主に修補や代替物引渡し等の対応をしてもらうには、民法では買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に通知する必要があります(民法566条)。
一方、商法では買主は商品の受領後検査を行い、不適合を発見したときは直ちに売主に通知する必要があります。もし検査で発見できない場合でも、6か月以内に売主に通知しなければなりません(商法526条)。本事例のような商人間の取引には、商法が適用されます。

また、契約で民法や商法の定めと異なる取決めを行うことも可能です。

③強行規定との関係

契約で法律と異なる取決めをすることができますが、強行規定に反する取決めはできません。取引対象がブランド品の違法コピー品や違法薬物であるなどといった場合や、一方の当事者にとってあまりにも不利益な取引条件である場合などは、強行規定である民法90条(公序良俗)により契約が無効になる可能性が高くなります。

売買ではありません、他の例として以下のようなものがあります。
あなたが取引先から物品の製造を取引先から請け負い、下請法で定める親事業者と下請事業者に該当する場合は下請法が適用されます。下請法では、下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めることが定められています。そのため、契約で「納品日の翌々月末を支払期日とする」と定めても、下請法第2条の2により「納品日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日」とみなされます。

2.特別法や強行規定の見分け方

(1)特別法の見分け方

法律の前文や目的条項には、その法律がどのような対象や目的に適用されるかが明示されていることが多いです。一般法の場合は広範囲な適用を示す文言があり、特別法の場合は特定の対象や状況に関する適用を示す文言があります。

商法
第1条(趣旨等)
 1項 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
 2項  商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治29年法律第89号)の定めるところによる。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)
第1条(目的)
 この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。

(2)強行規定の見分け方

任意規定か強行規定かは、条文に明記している場合もありますが、条文を見ただけではわからない場合もあります。法律の専門書で確認する、専門家に相談するなどして確認するようにしてください。

民法
第90条(公序良俗) 
 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

借地借家法
第9条(強行規定) 
 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。

3.契約で定めるべき事項

契約には関連する法律が適用されます。強行規定に反しなければ、法律と異なる定めをすることもできます。つまり、契約では強行規定に違反しない範囲で、法律の定めを修正したい事項を定めることが基本です。

もっとも、法律の定めずに従う場合であっても、具体的にどの法律の条項が適用され、どのような結論が導き出されるかは法律の専門家ではない限り(内容によっては専門家であっても)簡単にはわかりません。契約書に記載されていない事項を、関係者が同一の法的見解をもち安心して取引を行うことは難しいでしょう。
そのため、法律の定めを修正したい事項だけでなく、法律に従う場合であっても、法律で定められた内容を確認したい事項についても定めておくことが実務上は重要です。