契約書が見つからない!契約書を紛失したときの対処方法について解説します

契約書を紛失し鞄の中を探す会社員

1.契約書を紛失すると

本来あってはならないことですが、「契約書が紛失して見つからない」といったトラブルが発生することがあります。では、このような場合、契約の効力はどうなるのでしょうか。

一部の契約を除き、契約は口頭でも有効に成立します。契約書は、当事者間の合意内容を証明する手段にすぎないため、契約書が紛失したとしても、契約そのものが無効になるわけではありません。ただし、契約書が存在しない場合には、契約内容の確認が困難となり、債務の範囲や履行条件をめぐって当事者間で認識の相違が生じるなど、様々な問題が発生します。契約書の保管・管理は、契約実務において極めて重要なポイントです。

2.契約書を紛失した場合のリスク

(1)とるべき対応や責任範囲が不明確になる

契約書がないと、たとえば納期遅延時の責任、製品保証、不可抗力などの条件がわかりません。そのため、何らかのトラブルが発生あるいは発生しそうな場合に、とるべき対応や責任範囲がわからず対応が困難になります。また、契約期間(満了日)や更新方法がわからないといった管理上の問題も発生します。

責任の重さを示すイメージ図

(2)契約相手と交渉する際の拠り所がない

拠り所のイメージ(地図で目的地を探検する二人連れ)

契約書がないと、取引の際に契約相手に対して適切な交渉ができません。万一、契約相手が契約を間違って解釈していたり、契約と異なる主張をされたりしても、反論できないといった問題が生じます。

(3)争いになったときの証拠がない

裁判所での争いのイメージ

契約相手との間で紛争が生じたり、裁判に発展した場合、契約書は重要な証拠となります。しかし、契約書が手元にない場合には、証拠不十分という問題が発生しかねません。もっとも、契約書は通常、当事者双方がそれぞれ正本を保管する形で作成されるため、相手方が契約書を提示すれば、それが証拠として機能します。とはいえ、自身の手元に契約書がない場合には、交渉方針や訴訟戦略を事前に十分に立てることが難しくなります。

(4)信用を失う

得意先の叱責を受ける担当者

契約書を紛失したことを契約相手に伝えた場合、あるいは何らかの原因で紛失が発覚した場合、管理体制の甘さや秘密情報の漏洩リスク(契約書は秘密情報であり、社外で紛失すれば秘密情報の流出につながる)から契約相手の信用を失い、その後のビジネスに悪影響を及ぼす可能性があります。

3.契約書を紛失した場合の対処方法

(1)社内で契約書のコピーやデータを入手する

書類をコピーする会社員

社内に契約書のコピーやデータが保管されていないかを確認します。可能であれば、捺印済みの契約書のコピーが望ましいですが、締結前の最終版のコピーやデータであっても、契約内容の把握には十分に役立ちます。契約に関与した社内関係者がいる場合は、その人物が契約書を保有している可能性が高いため、併せて確認するとよいでしょう。

(2)契約相手から契約書のコピーを入手する

契約書のコピー

契約書は、契約時に原本を当事者分作成して、各自が1通ずつ保管するのが一般的です。そこで、契約相手が保管している原本をコピーさせてもらいます。

(3)契約書のコピーに契約相手の認証をもらう

(1)または(2)の方法で契約書のコピーを入手すれば契約内容を把握できますが、単なるコピーですと証拠能力に欠けるという問題があります。これを補うために、コピーが原本と相違ない旨を契約相手に認証してもらうという方法があります(原本証明といいます)。

具体的には、契約書コピーに「原本と相違ないことを証明する」旨の文書と契約相手方の署名または捺印をもらうというものです。このようにすることで、コピーであっても裁判等において、原本に準じるものとして扱われます。

原本証明の記載例

なお、契約書のコピーであっても、次のような形態の場合は印紙税の課税対象となり、契約の種類によっては収入印紙が必要になります。
①契約当事者の双方または文書の所持者以外の一方の署名または押印があるもの
②正本などと相違ないこと、または写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの

【参考】国税庁HP  
 No.7120 契約書の写し、副本、謄本等
 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7120.htm

(4)契約書を再発行する

契約の締結イメージ

契約書のコピーを利用するのではなく、契約書を再度締結するという方法もあります。この方法は、契約相手の了承を得る必要があり、契約書の再作成という手間も伴うため、実務上のハードルは高いものの、契約の証拠性を確実に担保できる点で、最も信頼性の高い手段といえます。

なお、再発行する契約書の契約締結日は、元の契約書よりも後の日付となるため、契約効力を元の契約締結日に遡って発生させる必要があります。この際、契約日を過去に遡って設定する「バックデート」は、日付の改ざんとみなされるおそれがあるため、避けるべきです。

契約書の発効日の設定方法については、こちらの記事を参考にしてください。
契約書様式のチェックポイント② ― 締結日と発効日の違いに注意しましょう ―

また、元の契約書発見されたり再締結した契約書の内容に齟齬がある場合、どちらの契約書が優先されるかという問題が生じる可能性があります。したがって、再締結した契約書が唯一有効である旨を契約書内に明記しておきましょう。契約書を再発行する場合は、契約の種類によっては収入印紙の貼付が必要となる点にも注意してください。

(5)どの方法を選択するべきか

(1)から(4)のいずれの方法を選択するかは、契約対象となるビジネスの重要性や、契約相手との信頼関係などを踏まえて判断します。

契約書のコピーやワープロデータなどが残っていれば実務上困ることはほとんどないでしょう。ただし、きちんとした契約書がないと、いざというときに証拠として使えません。重要な契約については、契約相手の原本証明付きのコピーを入手するか、再度契約を締結するといった対応の検討も必要になります。

一方で、もしコピーやワープロデータもないとなると、ビジネスを進めることで大きなリスクを負うことになりかねません。このような場合は、契約相手に丁寧に事情を説明して、コピーを入手する等の対応を行うことが好ましいでしょう。

4.契約書の紛失を防ぐための対策

契約書の紛失は、企業規模や業種を問わず、起こり得るリスクです。紛失を防ぐためには、あらかじめ適切な予防策を講じておくことが重要です。

(1)契約書管理を行う担当部署・担当者を設ける

契約書の管理者

契約書を実務担当者などの個人管理に任せていると、紛失の危険が高くなります。契約書を管理する部門を決めそこで管理する、あるいは部署内で担当者を決め契約書を管理するといった対応を行うことで、紛失のリスクを減らすことができます。

(2)契約書の管理ルールを徹底する

管理手順書

(1)の方法により契約書を集中管理していたとしても、内容を確認したい者が契約書を持ち出し、返却せずに放置することで紛失につながる恐れがあります。このため、契約書の持ち出しには管理者の承認を必須とし、持ち出しおよび返却の履歴を確実に記録することで、契約書を安易に持ち出せない仕組みを整える必要があります。持ち出された場合に、「誰が」「いつ」「どの契約書を」「返却済か否か」といった情報を把握できるようにすることが重要です。

(3)電子契約を利用する

紙の契約書を電子化する

紙の契約書では完全に防ぎきれない紛失リスクも、電子契約の導入により大幅に軽減することが可能です。電子契約では、契約書の正本を電子データとして一元管理するため、半永久的な保存や出力が可能となります。

また、適切な権限を持つ者であれば、いつでもシステムにアクセスして契約書データを取得できる利便性に加え、個人の管理に依存した紛失や所在不明といった属人的なトラブルが発生しにくい点も大きなメリットです。

電子契約に関しては、こちらの記事も参考にしてください。
電子契約① ― 電子契約とは ―   
電子契約② ― 導入の際に検討すべき事項 ―


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