契約書の必要性② ― 契約書がない状態で争いが生じたら ―
契約書の必要性①で説明したように、契約書がなくても当事者間の合意があれば契約は成立します。それでは、契約書がない場合に、取引相手と争いが生じた場合はどうなるでしょう。
この場合、契約書に代わる証拠(メール、FAX等)があれば、それに基づき判断することになります。証拠だけでは合意があったとは言えない事項や、そもそも取決めがない事項については、民法・商法等の法律が適用されることになります。
では、法律の定めがあるので契約書を作成する必要はないのでしょうか。答えはNoです。
理由1:法律でカバーされない事項を定めることが必要
契約の内容によっては現在の法律では定めがない事項が存在する場合があります。
また、法律には通常概念的な取り決めしかありません。該当する法律が存在する場合でも「今回のケースでは具体的にどうなるのか」は、直ちにわからなことが多いのです。このため、当事者間の争いを避けるために法律の規定を補足する事項を契約書で定めておくことが重要です。
製品売買において納期に遅れが発生した場合、買手はこれによって生じた損害を売手に請求できます(民法412条、415条)。ただ、具体的にどの程度の賠償を請求できるのかは、条文を見ただけでは簡単には判断がつきません。
そこで「売手は、納品遅れ一日につき○円の遅延損害金を買手に支払わなければならない」と契約書に定めておけば、協議を行うまでもなく損害賠償請求ができるのです。
売手も、どの程度の賠償責任があるかのかが事前にわかるので、リスクを予測して取引を行うことが可能になります。
理由2:法律の規定にとらわれない合意をすることが可能
法律の規定の多くは、当事者間で合意すればその内容を自由に変更することができます(任意規定といいます。反対に、当事者で合意してもその内容を変更できない規定を強行規定といいます)。相手と合意できれば法律(任意規定)にとらわれず、自分の望む内容を定めることができるのです。