英文契約書が長文になる理由|英米法おける契約の考え方を解説

英文契約(国際契約)に対応した経験のある方、あるいは現在対応を行っている方の多くは、「英文契約書は長い」と感じることが多い思います。なぜ長文になるのかについては、以下のような理由が存在します。

1.契約書の作成は取引ごとの新たな法律を作ること

英文契約は英米法に基づく契約の概念が背景にあります。英米法のベースは判例法ですので、過去の判例に基づき契約が解釈されます。
個々の取引に適用される判例を特定し、どのような結論が導き出せるかを判断することは非常に難しいのです。そのため、過去の判例に頼ることなく、取引ごとに独自の法律を構築するような契約書を作成することが、安定した取引をもたらすとの考えがあります。
取引に必要な条件だけでなく、あらゆる事態にも対処できるようにするため、長文になってしまうのです。

古い話になりますが、イチロー選手が大リーグに移籍し新人賞を獲得した際には、契約書に基づいてきちんとボーナスが支払われたそうです。
米国で無名に近い日本の選手が大リーグで新人賞を取るということは想定されていなかったでしょうが、契約書にはそのような事態が発生した場合の条件も記載されていたそうです。

2.完全合意という考え方

英米法には完全合意(Entire Agreement)という考え方があります。これは、別段の合意がない限り、契約締結後はそれ以前の当事者間の合意は、口頭、書面、その他の形式にかかわらず効力を失い、契約書に規定されている内容が最終的な合意になるというものです。
合意事項は仔細漏らさず契約書に記載しておく必要があるため、長文になってしまうのです。

3.短い契約書がわかりやすいとは言えない

契約書が短いからといって、必ずしもわかりやすいとは言えません。日本の契約は背景に民法や商法などの法律での定めがあります。英米法は判例法であると書きましたが、米国では統一商事法典(UCC:Uniform Commercial Code)というモデル法典が作成され、ほぼすべての州でUCCをベースにした州の法律が制定されています。そのため、契約書には法律とは異なる定めのみを記載し、それ以外は法律の定めに従えばよいと考えることもできます。

これは一見合理的に思えますが、現実はどうでしょう。判例を調べるより負荷は少ないものの、契約書に明示されていないことについて法律を当てはめることは難しく、不安定さは避けられません。
想定される事項をできる限り契約書に盛り込むという英文契約の考え方は、ある意味合理的かもしれません。



この記事の著者:加藤達夫(行政書士)
契約書業務を専門とする行政書士。大手企業の法務部門で37年間、契約実務に従事した後に独立。現在は、日本語・英語双方の契約書の作成に対応しています。ベンチャー企業から中小企業まで、幅広い事業者の契約実務をサポート。条文の背景や潜在的なリスクを分かりやすく説明し、実務で使える契約書の作成を心がけています。

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