契約書様式のチェックポイント⑧ ―印紙の消印と印紙を貼った契約書の渡し方・返し方―

ポイント1:印紙には消印が必要です
契約書の種類によっては、収入印紙(印紙)の貼付が必要です。ただし、印紙を貼るだけでは不十分であり、契約書と印紙の彩紋とにかけて消印を押さなければなりません。これにより、収入印紙の再利用を防ぎ、納税の事実を証明することができます。
印紙を貼る場所
印紙を貼る位置に決まりはありません。一般的には契約書左上の余白に貼ります。

消印に使用する印鑑
消印に使用する印鑑は、契約締結者の印鑑(契約印)に限らず、他の印鑑でも問題ありません。一般的には、契約締結者本人の印鑑が使用されることが多いものの、特に決まりはなく、代理人や他の従業員の印鑑を使用することも可能です。また、個人名の印鑑だけでなく、役職印や会社印(角印)を用いることもできます。
印鑑の代わりに署名(サイン)を施すことでも問題ありません。
ただし、単に「印」と表⽰したり斜線を引いたりしてもそれは印鑑(印章)や署名には当たりませんから、消印を施したことにはなりません。


消すことができない方法で消印を施す
印鑑の種類としては、朱肉を使用するもののほか、シャチハタも使用可能です。署名の場合はボールペンなどを使用します。ただし、鉛筆など消せる筆記具は使用できません。
契約当事者全員の消印は不要
複数当事者の契約であっても一当事者の消印があればよく、当事者全員の消印は不要です。もちろん、全員で消印を押しても問題はありません。
印紙税基本通達 第64条
2以上の者が共同して作成した課税文書にはり付けた印紙を法第8条《印紙による納付等》第2項の規定により消す場合には、作成者のうちの一の者が消すこととしても差し支えない。
印紙が複数枚の場合は全てに消印が必要
複数枚の印紙を貼付した場合は、複数枚の印紙にまたがって消印を押すか、それぞれの収入印紙に消印を押す必要があります。

消印をし忘れた場合のペナルティ
印紙に消印をし忘れた場合、過怠税が課されます。具体的には、消印を押さなかった印紙の額面金額と同額の過怠税が徴収されます。
【参考】国税庁HP
印紙を貼り付けなかった場合の過怠税
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/21.htm
ポイント2:契約書の作成数、作成者、渡し方・返し方を確認しましょう
契約書の作成通数
契約書の作成通数(部数)に決まりはありません。複数当事者の契約でも、印紙を節約するために1通だけ契約書を作成するのでも構いません。ただし、契約書は契約の証拠となる文書ですので、当事者分作成して各当事者が1通ずつ保有するのが一般的です。
契約書の作成者
契約書を誰が作成(契約書を印刷・製本)するかは、当事者で決めます。一般的には契約書を提案した側や契約内容を主導した側が作成します。
契約書の渡し方・返し方
印紙が必要な契約書の作成は、一般的に以下のような順序で行います。
前提
二者契約で、契約書を作成する当事者を「当事者A」、その相手方を「当事者B」とする。契約書は2通を作成して各自が1通を保有し、印紙は各当事者が均等に負担する。
手続きの流れ
<当事者A>
① 契約書を2通作成する。
② 契約書2通の署名蘭に、記名・捺印する(印紙は貼らない)。
③ 契約書2通を当事者Bに送る。
↓
<当事者B>
④ 受取った契約書2通の署名蘭に、記名・捺印する。
⑤ 1通の契約書を当事者Aに返送する(印紙は貼らない)。
⑥ もう1通の契約書に印紙を貼って消印を押し、当事者Bの保有分とする。
↓
<当事者A>
⑦ 返送された契約書に印紙を貼って消印を押し、当時者Aの保有分とする。
もし、当事者Aが1通の契約書に印紙を貼り、消印を押した状態で当事者Bに送付した場合、当事者Bは印紙が未貼付の契約書に印紙を貼り、消印を押して返送するのが一般的です。これにより、当事者Aは、当事者Bが印紙を貼り納税した事実を確認できます。
なお、上記はあくまで例であって、案件ごとに当事者間で契約書の作成方法を決定します。
ポイント3:印紙による納税は連帯責任です
印紙税をどのように負担するかは、契約当事者が自由に決定できます。契約書を当事者の人数分の契約書を作成する場合、各当事者が均等に負担するのが一般的です。例えば、二者契約で契約書を2通作成するときは、各当事者が1通分の印紙税を負担します。
ただし、各当事者が連帯して納税義務を負う点に注意が必要です。契約書を2通作成し、印紙税を均等に負担にした場合でも、一方の当事者が印紙を貼り忘れた場合、両当事者が責任を負うことになります。その際、未納の印紙税額に加え、その2倍の金額が加算され、合計で印紙税額の3倍に相当する過怠税が徴収されることになります。
【参考】国税庁HP
印紙を貼り付けなかった場合の過怠税
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/21.htm
契約書業務において、印紙の要否とその金額の判断が重要であることは言うまでもありません。しかし、法的に有効な消印を施して初めて、納税義務を果たしたことになります。正しい額の印紙を貼っても、消印の方法が誤っていると、税務署から指摘を受け、過怠税というペナルティが課されるおそれがあります。そのような事態を避けるためにも、本稿を参考に、適切な方法で消印を施してください。
印紙税については、こちらの記事も参照してください。
契約書様式のチェックポイント⑦ ― 契約は相手との取決め・印紙税は国との取決めです ―
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