電子契約②― 導入の際に検討すべき事項 ―
電子契約サービスを導入するには検討すべき点がいくつかあります。主な検討項目について解説します。
1.導入目的・メリットの明確化
紙の契約書の場合は、契約書の出力・製本、捺印・署名の取得、郵送等での契約書のやり取りといった作業を人が行う必要があります。電子契約では同様の作業をシステム内で完結できるため作業時間や人件費等の削減が可能です。一方で、電子契約システムの導入や利用には費用がかります。導入に際しては、どの程度の業務効率化とコストダウンが図れるかを検証しておく必要があります。
2.導入するサービスの選定
多くの電子契約サービスが提供されていますので機能、費用、サポートなどを比較して、自社に適切な電子契約サービスを選定します。将来的にサービス提供が終了するリスクもありますので、電位契約サービス事業者の経営状況やサービスのシェアなども踏まえて選定するのがよいでしょう。海外の取引先との契約に使用する場合は、多言語対応しているか、海外でのシェア(知名度)があるかといった点も考慮する必要があります。
3.電子契約に合わせたルール策定
紙の契約書締結に関する社内ルールが存在すると思います。これらを電子契約に対応できるようにします。
(1)契約締結の社内承認
契約締結の社内承認は、通常の場合は電子契約による影響を受けません。電子契約は、社内の承認を得た後の手続(紙の契約では契約書印刷・製本、押印・署名、郵送によるやり取りに該当します)に使用するものだからです。
(2)署名者
紙の契約書で用いる締結権限者(代表者等)の印鑑は、総務部門等で管理され、担当者が許可を得て契約書に押印するのが一般的です。一方、電子契約ではメールアドレスを使用して署名者を特定します。そのため、電子契約では原則として代表者本人が署名する必要があります。もし、代理人が署名する場合は、その旨を相手に承認してもらう必要があります。
※電子契約の承認方法には「印鑑を押印する(疑似的に作成した印鑑やスキャナーから取り込んだ印影画像を押印する)」「画面上で署名する」「承認ボタンを押す」などの形式がありますが、いずれの方法でもメールアドレスで特定される署名者が署名した履歴が証拠として残ります。そのため、誰が署名者になるのかを決めておく必要があります。
(3)電子契約の対象とする契約の選定
扱う契約の件数が少なく、契約の種類が固定化している場合は、導入当初からすべての契約を電子契約で扱うことが可能です。しかし、契約数や契約の種類、契約締結部門が多岐にわたる場合、一度にすべてを電子契約に置き換えるのは難しいかもしれません。そのため、導入時には、どの種類の契約を電子契約に置き換えるのか、どの部門を対象とするのかといった運用方針を慎重に検討する必要があります。スモールスタートで運用を開始し、ノウハウを蓄積しながら順次拡大していく方が、成功する可能性が高いでしょう。
(4)規程類の見直し
契約の締結や管理に関して規程を設けている会社も多いと思います。紙の契約書を前提としている場合は、電子契約にあった形に修正する必要があります。
4.操作担当者の設置・社内教育
電子契約は操作担当者が操作すれば実際に締結権限がなくても契約が締結できてしまうというリスクがあります。また、電子契約の操作には一定のスキル(慣れ)が必用です。そのため電子契約の使用を締結権限のある人に限定したり、依頼を受けて操作を行う操作担当者を決めておくといった対応が必用になります。また、実際に操作しない人も、電子契約の使用を操作担当者に依頼する立場にはなりますので、電子契約についての基本的な理解は必用です。社内周知のための説明会の開催やマニュアル類の整備を検討します。
5.契約相手との調整
契約相手に電子契約での契約締結を承諾してもらうための調整が必要になります。相手が電子契約に詳しくないことも想定されますので、電子契約の概要や操作方法の説明資料などを用意しておきましょう。
6.まとめ
電子契約は非常に便利ですが、重要な契約を扱うため、紙の契約の置き換えは慎重に検討する必要があります。当面は紙の契約書も併用されるため、両者の共存が必要です。そのため、最初からすべての契約を電子契約に切り替えるのではなく、段階的に運用を広げるなど、自社の状況に適した導入を検討しましょう。