英文契約書の基礎知識② ―契約成立には「約因」が必用です―
英文契約は英米法に基づく契約の概念を背景にしています。
英米法で契約を有効に成立させるためには、「約因」が必要です。実務上はあまり気にする必要はありませんが、知識として知っておくとよいでしょう。
1.約因とは
英米法(コモンロー)において契約が有効に成立するためには、契約を結ぶ当事者全員が何らか対価(見返り)を享受する関係になっていることが必用です。物や行為(不作為「~しない」も含む)が対象で、この対価関係のことを約因(Consideration)といいます。
そのため、一方当事者のみが利益を与え、他方当事者のみが利益を享受するような契約には法的拘束力はありません。相手が契約を守らない場合に訴訟を起こしても裁判所は取り上げてくれないのです。
なお、日本の法律では当事者間で何らかの対価がなくても合意があれば契約が成立します。例えば贈与契約で贈る側に何の見返りがなくなくても、契約は有効に成立します。
2.約因があることの記載方法
約因の有無はあくまで契約内容で判断されるのですが、約因があることを明確にするために契約書の前文に以下のような記載をすることがあります。
Whereas, party A・・ 当事者Aは・・であり
(例: Party A manufactures and sells the Products 当事者Aはある製品を製造販売しており)
Whereas, party B・・ 当事者Bは・・であり:
(例:Party B desires to purchase the product 当事者Bはその製品をを購入することを望んでいる)
in consideration of premises and mutual covenants set forth herein, the parties hereto agree as follows:
本契約に定められている前文及び相互の制約を約因として両当事者は以下のとおり合意する
ここでは契約に至った経緯と当事者に約因があること(AがBに製品を販売し、BがAにその代金を支払うことで相互に対価を有する)を示し、この契約が有効であると述べています。
※Whereasは「・・なので」という意味で、契約書の冒頭で契約締結に至った経緯、目的などを説明する際に使われる用語です。partyは「契約の当事者」を指す用語です。
3.実務上問題になることはほとんどありません
このように、英米法では約因の有無は契約の有効性に関連する重要な要件です。しかし、ビジネスにおいて見返りなしで契約を結ぶことはまずありません。そのため、ビジネスで締結する契約の場合、約因の有無について気にする必要はほとんどないといえます。
英米法に基づく英文契約には約因が必用であること、それが存在することを前文で説明していることを知っておけば十分です。