英文契約書の基礎知識⑥ ―複数言語で契約書を作成する場合の注意点―

契約書をどの言語で作成するかは当事者の自由です。国際契約では英語で契約書を作成することが多いですが、当事者が英語を母国語としていない場合、当事者の自国語の契約書も作成することがあります。この場合、複数言語の契約書が存在することになるので、それぞれの位置づけに注意が必要です。
1.複数言語で契約書を作成する理由

通常、契約書を複数言語で作成する理由は、英文契約書に慣れてない、承認手続に必用であるといったい社内対応のために自国語の契約書を必用とする場合が多いと思います。また、国によっては監督官庁への契約書の提出が必要とされる場合もあります。例えば、中国企業が他国の企業とフランチャイズ契約やライセンス契約を結んだ場合は監督官庁への中国語の契約書(中国語以外で締結した場合はその中国語訳)の提出義務があります。
2.注意点

法律用語を含む契約書を異なる言語に正確に翻訳することは大変難しいですし、翻訳が正確であっても言語が異なれば解釈の違いを生むおそれがあります。契約書を作成する目的の一つは、当事者の合意を明文化して共通認識を持つことですが、言語の違いにより異なった解釈が発生するとトラブルに発展することにもなりかねません。
3.複数言語の契約書を作成する場合の対応

このような問題を避けるために、契約書は一つの言語にすることが好ましいでしょう。そのため、複数言語の契約書が存在する場合は、どの言語が正文であるかを契約定めておくようにします(パターン①)。
法律の定めにより現地語での契約書作成が必要な場合で、契約相手がその言語を理解できず、自国語の契約書も正本にすることを主張するといった場合には、両方の契約書を同等の位置づけとします。言語によって解釈に違いが生じた場合は、どちらがより当事者の意図を反映しているかを協議のうえで決定します(パターン②)。
以下に、条文例を示します。
パターン①の例文
複数言語の契約書のうち、一つの言語を正文とし、他の言語は参照用とする。
This Agreement is made in English and Chinese. The English text is the original and the Chinese text is for reference purposes. If there is any conflict or inconsistency between these two texts, the English text shall prevail.
本契約は英語と中国語で作成される。英文は原本であり、中文は参考用である。これら2つのテキストの間に矛盾や齟齬がある場合は、英文が優先する。
パターン②の例文
複数言語それぞれを正文とし、同等の位置づけとする。
This Agreement is written in both Japanese and Chinese. Both language versions shall be authentic and have equal validity and legal effect.
本契約は日本語と中国語で作成される。両言語のバージョンは真正であり同等に有効で法的効力を有する。