英文契約書の基礎知識③ ―英文契約の見えない保証に注意―

英文契約は英米法に基づく契約の概念を背景にしています。
英米法では契約書に記載しなくても一定の保証をしたことになっていることをご存じでしょうか。英米法には「明示の保証」と「黙示の保証」の二つの保証があるのです。

1.明示の保証とは

商品売買や製造委託といった動産の売買では、商品表示、仕様書、カタログ、サンプル等を提示すると、目的物がこれらに合致することを保証したことになります。これを明示の保証(express warranty)といいます。
衣料品に「ウール100%」と表示すれば材料がウール100%であることを保証したことになり、自動車のカタログに「最高出力250PS(馬力)」と書けばエンジンがその出力を満たすことを保証したことになります。

2.黙示の保証とは

明示の保証以外、英米法では「黙示の保証(implied warranty)」という概念があります。例えば、米国の多くの州法に採用されている米国統一商事法典(UCC:Uniform Commercial Code)にこの保証が定められています。契約書に明示しなくても、売主は以下の保証したことになるのです。

A)商品性に関する黙示の保証(implied warranty of merchantability)
商品として適用することの保証。具体的には商品が、① 通常の用途に適していること、②平均的な品質を有していること、③品質と数量が均一であること、④適切に包装され表示されていること、⑤表示された通りの性能を発揮することについて保証する。

B)特定目的の適合性に関する黙示の保証(implied warranty of fitness for particular purpose)
売主が、買主から示された使用目的を果たすものであることの保証。売主が買主が商品を購入する目的を知っており、買主が売主の商品選択の技量・判断を信頼している場合は、その目的に商品が適合することを保証する。

例えば、売主がある製品を販売する際、買主がその製品を世界のあらゆる地域で使用することを知っている場合、熱帯でも極寒地でも正常に機能することを求められる可能性があります。しかし、売主としては、通常そこまでの保証をすることは難しいでしょう。

3.黙示の保証を排除するには ~ 契約書で目立つように否定することが必用 ~

黙示の保証を排除するにはどうすればよいのでしょうか。UCCでは、黙示の保証を排除するには、契約書中に目立つ形で明確に記載しなければならないとされています。契約書中に大文字や太字で記載されている部分を見たことがあるかもしれませんが、それはこの規定に従っているのです。

製品保証に関する条文例を以下に示します。前半が明示の保証で、後半の大文字・太字の箇所が黙示の保証を排除する旨の取決めです。

Seller warrants to Buyer that Products shall conform to the Specifications. Unless otherwise stipulated in the Specifications, Seller’s warranty shall continue for a period of three (3) months from the date of shipment from Seller’s site. EXCEPT AS PROVIDED HEREIN, SELLER DOES NOT GUARANTEE OR WARRANT THE PRODUCTS IN ANY WAY, INCLUDING, WITHOUT LIMITATION, (i) WARRANTY OF MERCHANTABILITY OR (ii) WARRANTY OF FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE, WHETHER EXPRESS OR IMPLIED BY LAW.

売主は、製品が仕様書に適合することを買主に保証する。仕様書に別段の規定がない限り、売主の保証は、売主の拠点からの出荷日から3カ月間継続するものとする。本契約に規定されている場合を除き、売主は、法律による明示または黙示を問わず、(i) 商品性の保証または (ii)特定目的への適合性の保証を含むがこれらに限定されない、いかなる方法においても製品保証はしない。

米国以外にも英米法の国では黙示の保証の考え方が存在します。例えば、以下のような国で黙示の保証を定めています。

イギリス:イギリスでは、商品供給法(Sale of Goods Act 1979)が黙示の保証について規定しています。特に、商品が「商品としての適正な品質」を持ち、「通常の目的に適していること」が保証されます。

カナダ:カナダでは、各州の商法が黙示の保証を規定しており、商品が特定の目的に適していることや、通常の使用に適していることが保証されます。

オーストラリア:オーストラリア消費者法(Australian Consumer Law)では、消費者取引における商品やサービスに関して、黙示の保証が規定されています。

契約条件は当事者の力関係によって決まります。通常は買主が優位ですし、買主にすれば黙示の保証がある方が安心ですのであえて外す理由はありません。ただ、売主の要求があれば、買主が黙示保証の排除を容認することが多いようです。
買主にとっても曖昧な保証よりも、具体的な証拠に基づいた保証を定めておく方が有効です。そのため、仕様書などで保証内容を明確に定めておくことが重要です。