誠実協議条項 ―誠実協議条項の必要性は?有効な条項にするための方法を解説します―
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1.誠実協議条項とは
誠実協議条項とは、契約に定めのない事項や契約の解釈について当事者間でトラブルが発生した際、誠実に協議して解決を図ることを定めた条項です。契約書には、次のような内容で記載されることが一般的です。
第〇条(誠実協議)
甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約の条項に関して疑義が生じた場合には、信義誠実の原則に従い、誠実に協議の上解決する。
こうした一般的な誠実協議条項には、実質的な法的拘束力はないといわれています。これは、民法の信義則により、契約当事者は互いに誠実に行動する義務を負うとされているためです。そのため、誠実協議条項の有無にかかわらず、契約当事者は誠実に協議することが求められます。
また、「誠実な協議」とはどのような協議を指すのかは不明確です。そのため、とりあえず相手の話を聞いたという程度でも、誠実に協議したと主張されればそれ以上の協議を求めることは難しくなります。
2.誠実協議条項では何を定めるべきか
誠実協議条項を定めることに意味がないのでしょうか。決してそうではありません。目的を明確にして具体的な内容を定めることで、一定の効果を期待できます。誠実協議条項では、以下の二つの点を定めるのが効果的です。
(1)いきなり裁判になるのを防ぐ
当事者間で契約に関する紛争が生じた場合、訴訟などの法的手段に訴えることができます。しかし、いきなり裁判に発展することは避けたいと考える当事者も少なくありません。そこで、契約書に「一定期間は当事者同士で協議を行うこと」を義務化することで、協議による解決を試みるよう義務付けることができます。この仕組みにより、契約相手が突然訴訟を提起することを防ぎ、話し合いによる円満な解決の可能性を高めることができます。
また、万一裁判が避けられそうにない場合でも、その準備には一定の時間が必要です。そのためにも、協議を行う期間を明確にしておけば、その時間を使って準備を進めておくことが可能になります。
(2)実効性のある協議方法を定める
当事者間に紛争が発生したときに、協議による解決を試みても、実効性のある方法でなければ十分な効果は期待できません。担当者どうしが数回メールを交わしただけでも、誠実に協議したと主張することは可能です。また、交渉担当者が不誠実な対応をしたり、社内の決定権を持っていないために交渉に消極的となる場合でも、担当者の変更を求めることは容易ではありません。
このような事態を防ぐためには、問題解決につながる協議方法、すなわち誰が、どこで、どのように協議するのかをあらかじめ定めておくことが有効です。
(3)誠実協議条項を有効な条項にするために
上記(1)(2)を達成するために定めるべき具体的項目を以下に示します。
① 協議の参加者
協議の参加者を定めます。参加者は、個人名ではなく役職等によって特定することで、将来的にもその有効性を維持できます。
当事者間にトラブルが発生した際には、まず担当者同士での協議が一般的ですが、それだけでは解決が困難な場合もあります。企業としての判断が求められる状況に備えて、あらかじめ役員など上位の職位にある者の参加を定めておくとよいでしょう。
② 協議の方法
日常的なやり取りと正式な紛争解決の協議を区別するために、協議開始の通知方法や協議の実施方法などを定めます。最近はオンラインミーティングが普及していますのでこういった手法を取り入れることも有効ですし、実際に会って協議することでより解決の可能性が高まることもあります。
③ 協議期間
協議にどの程度の時間をかけるのかを定めます。契約の性質や重要性に応じ、十分な協議を行うに足る合理的な期間を設定します。併せて、この期間中は訴訟等の法的手段に訴えないことを明記しておきます。
④ 協議が成立しなかった場合の対応
協議を尽くしても解決に至らかった場合の対応として、仲裁や裁判の手続きを定めます。別途紛争解決手段が定められている場合は、その条項と連携させます。
3.条項例とそのポイント
以下に、具体的な条項例を挙げて説明します。
第○条(誠実協議)
1.本契約に定めのない事項及び本契約の解釈につき相違のある事項①については、甲及び乙は、訴訟その他の法的手続きを(別案:第〇条に定める紛争解決手段を)開始する前に②、誠実に協議し、解決を図るものとする。
2.前項に定める協議は、甲又は乙から他当事者への書面による通知をもって開始され、開始後〇日以内に③、双方の代表者(取締役またはそれに相当する権限を有する者)④がオンラインまたは対面⑤で協議を行うものとする。
3.協議が開始されたにもかかわらず、〇か月以内に合意に至らない場合⑥、甲及び乙は、訴訟その他の法的手続きを検討するものとする(別案:第〇条に従って紛争を解決するものとする)⑦。
① 協議を行うのは、(i)契約に定めのない事項と、(ii)本契約に定めがあるが解釈に相違のある事項であることを明確にします。
② 法的手段に訴える前に協議を行う義務があることを明確にします。
③ 協議の開始を通知する手段と協議の開始時期を定めます。
④ 協議に参加する責任者(役職等)を定めます。
⑤ 具体的な協議の方法を定めます。オンラインや対面などの協議方法があります。
⑥ 協議を行う期間を定めます。実効性を高めるために、解決策を見出すのに十分な期間を設定します。
⑦ 協議で合意に至らなかった場合に備え、次の対応を定めます。紛争解決手段を別途定めた場合は、その条項と連携させます。
4.まとめ
一般的な誠実協議条項には法的拘束力が認められにくいため、契約書に含めたとしても、実質的な効果は限定的です。実効性のある条項とするためには、本稿で述べたとおり、協議の進め方や期間などを具体的かつ明確に規定する必要があります。
一方で、特段の詳細を設ける必要がない場合であっても、相手方が誠実協議条項を契約案に含めてきたのであれば、あえてこれを削除する必要はありません。この種の条項は、通常は当事者に不利な影響を及ぼすものではなく、削除をめぐって交渉を行う合理性も乏しいためです。
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