英文契約書の基礎知識⑤ ―一般条項で知っておきたい知識3選―

一般条項において、英米法に特徴的な条項をご紹介します。これらはさまざまな種類の契約書に記載されることが多いため、概要を理解しておくことが重要です。
※準拠法と紛争解決条項に関してはこちらをご覧ください。

1.完全合意条項(Entire Agreement Clause)

完全合意とは、別段の合意がない限り、契約書締結後はそれ以前の当事者の合意は、口頭、書面、その他の形式にかかわらず効力を失い、契約書に規定されている内容が最終的な合意になるということです。英米法では口頭証拠排除の原則(Parol Evidence Rule)があり、契約当事者が完全なる合意として書面を作成した場合は、それ以前の書面や口頭の合意によって契約条件を覆すことはできません。そのため、完全合意条項によって契約書を作成した場合、契約書作成以前の異なる合意の主張は認められません。

なお、完全合意は契約書締結以前の合意を排除するものですが、当事者の合意があれば締結後に契約書の内容を修正することは問題ありません。

2.権利不放棄条項(No Waiver Clause)

権利不放棄とは、契約上有する権利を行使しなかった場合であっても、その権利を放棄したとはみなされないということです。例えば、買主が契約で定めた商品代金の支払期限に遅れた場合に、売主が契約書に定めた遅延金の支払いを求めなかったとしても、それは権利の放棄を意味しません(遅延金請求権の放棄にはなりません)。また、将来的に支払いの遅れが再度発生した場合にも、遅延金の請求に影響を与えることはありません(今回権利行使しなかったからといって、次回以降に権利行使ができないわけではありません)。

英米法の下では、権利を行使できる状況で行使しない場合、その権利を放棄したとみなされ、以降権利行使ができなくなる場合があります。たとえ権利府放棄条項がある場合でも、契約違反があった際には権利を行使し、一部の権利を放棄する場合はその範囲を明確にしておくことが重要です。良かれと思って大目に見た行為が、自分の権利の放棄とならないよう注意が必要です。

3.分離可能条項(Severability Clause)

 分離可能条項は、契約の一部が無効になった場合でも、無効とされた部分以外の条項は有効であり、契約全体は無効にならないことを定めています。この条項の定め方は二つあります。

A)契約書の特定の条文が無効になっても、その他の条文は有効である
(例)販売店契約において、再販価格を指定する条文が独占禁止法で無効になった場合でも、他の条文は引き続き有効である。

B)契約書の条文が一部が無効になっても、可能な範囲で効力を維持する
(例)利息を定める条文が法律の上限を超えており認められない場合でも、法律上認められる利息の限度で効力を維持する。

一般条項は、準拠法条項と紛争解決条項を除けば、一方の当事者が有利または不利になることはありません。ここで紹介した条項は、原則として契約書に加えておくようにしましょう。